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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)16号 判決 1969年4月25日

上告人

日新興業株式会社

右代表者

中埜秀太郎

右代理人

西村日吉磨

水島林

被上告人

東京海上火災保険株式会社

右代表者

菊池稔

右代理人

田中慎介

久野盈雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西村日吉磨、同水島林の上告理由第一点および第二点について。

原判決が本件自動車保険普通保険約款(以下約款と略称する)三条一号および四条四号の各趣旨およびその関係について、慣習を顧慮したうえ、四条四号は、本件事故当時施行されていた道路交通取締法(昭和二二年法律第一三〇号)および同施行令(昭和二八年政令第二六一号)等が危険の発生あるいは増加の蓋然性が極めて大きいものとして自動車の使用または運転を禁止しているような重大な法令違反行為で、右行為が罰条に該当し、かつ、右法令違反と事故との間に因果関係のある場合にかぎり、免責とすることを定めたものと解するのが相当であり、そして、約款四条四号が法規違反の主体を保険の当事者のみに限定したものとする解釈は合理的根拠を欠くものといわなければならない旨、約款三条一号は、その責に帰すべき事由で任意に招致した事故は保険の信義則に違反し偶然性を欠く点から、いわゆる事故招致に基づく商法所定の免責の範囲を保険契約者、被保険者、保険金を受け取るべき者のほか、これらの者の代理人等に拡大する反面被保険者の管理監督の及ばない運転手または助手(以下単に運転手という。)の重過失(運転手の故意については被保険者自身の責任と同一視して免責を除外する。)に例外を認めることによつて善良な被保険者を保護しようとしたもので、右但書は事故招致免責の例外復活規定というべきものであり、約款四条四号とはその制定の趣旨を異にするから、約款三条一号但書の箇囲で約款四条四号の適用が当然排除されると解すべきではない旨の判断は正当というべきである。ところで、本件事故は訴外黒川道雄運転手が酒に酔つて正常な運転ができないにもかかわらず自動車を運転したため惹起されたものであることは、原審の適法に確定した事実であるから、同運転手は前記道路交通取締法七条一項二項三号により自動車の運転を禁止される(同条違反は同法二八条一号により罰せられる)状態にあつたにもかかわらず、その状態のまま自動車を運転した悪質重大な法令違反行為により本件事故を惹起したものというべきである。そうとすれば、前記説示に照らし、被上告会社は本件事故による損害につき填補の責に任じないものというべきであり、これと同趣旨の原判決の判断は相当である。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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